「あ! ちょっと、困ります、そろそろパレードが来るので端に寄ってくれないと……」
「うるせぇ二等兵! 緊急事態だ!」
「マ、マリピエロ准尉!?」

 ぎゃんぎゃん吠える二等兵を押し切って大通りの中心を走った。両脇のざわめきが波のように上っては後方に飛ぶ。消えない。治安部隊で戦争を経験してからこっち、心臓辺りに出来た警鐘が立ち止まるなとがなりたてている。立ち止まったら消されるぞ。

「おいおい、何だ、何があった? 理由も分からず走るのは俺は好かんぞ!」
「アンタもうっせぇよおっさん! 今説明してる時間はねぇ!」
「さっき言いそこねたが上司に向かっておっさんとは何事か!」

 あーどいつもこいつも! 叩きつけたい感情を舌を打つことでごまかした。この危機的状況でなんてのほほんとしたことを言ってやがるのか!
 無理矢理歩幅を広げて少女の横に陣取った。今ここで頼りになるのはこいつらじゃない。教会だ。

「おい、嬢ちゃんどうする。狙われてんのはアンタだ。このまま教会本部逃げこむにしても、追いついて来ないとも限らねぇ。少し時間をくれりゃあここにいる二等兵全員召集かけて――」
「本部に逃げ込む気は無いよ」
「――はぁ?」

 素っ頓狂な声が出た。殺人鬼だか何だかに命狙われて安全地帯に逃げ込まないなどと馬鹿か間抜けのすることで、流石にその返答はマリピエロも予想していなかった。しかし彼女の方に動揺やら恐怖やら焦燥やらといった感情を抱いた素振りはまるで無い。あまりの事態にとち狂った様子も無く、むしろ冷静に、無感情にも思える淡々とした口ぶりで

「本部に逃げたところで一旦引かれるだけで、どうせまたすぐ機会がくれば狙われる。なら今のうちに叩きのめした方がいい」
「叩きのめすって、アンタ――」
「それよりマリピエロ。なるべく人が少なくてそれなりの広さがある路地ってどこか知らない?」

 さっきからしきりに周囲に視線を巡らせていたのはそのことだったのか――彼女は何でもない顔で言ってのけた。
 何なんだこの子は。
 マリピエロの不審さに十中八九気付いておきながら敢えて共に行動することを許可し、追い詰めてものらりくらりとかわされる。おまけに殺人鬼だか何だか相手に簡単に叩きのめすだの言い出して。――こいつ、

「マリピエロ。早く。追いつかれる。もうそこまで迫ってる」
「!」

 天を仰ぐ。夜風に揺れて通りの高いところに張り巡らされた旗がばたばた揺れる。その端に言う通り人影の姿を認めた。さっき、ナイフを投げられたときには見えなかったが確かに屋根を駆けている。そこに何の淀みも無い。すっかり慣れた足取りで上着を靡かせ、こっちをずっと追ってきている――目が合った。気がした。月光を背にして走っている男の詳細はマリピエロには分からない。けれどそんな気が確かにした。黒いのっぺりした殺意の塊を宿した目。戦慄。
 旗の下に仕立屋看板を見つけて、すぐさま脳内の地図と照合した。警鐘が尚大きくなる。〜〜っ! ええい、仕方ねぇ!

「次の角左だ! 路地の一個目の角をまた左に曲がったらそこそこ広い通路に出る!」
「りょかい!」

 高らかに了承した彼女を追って、人ごみとざわめきを掻き分けマリピエロも角を曲がった。



マギサ・マギア・マスカ



 立ち止まった。広い路地だった。大通りほどではないけれど、マリピエロの言う通りそこそこに広くて人影は無い。今日がパレードの日で良かった。そうでなかったらきっとここにも人が溢れていただろうだから。
 ――振り返った。
 視線を上げる。宙に固定。屋根の上、凛と佇立する人影がある。ずっと真佳を追ってきた人影の輪郭と見事に一致。暗い路地である分、さっきよりも尚濃くなった影のおかげで顔はまだはっきり認識することは出来ない。
 その影が口を開いた。

「こんなところに連れ出して、是非殺してくれと言っているようなもんだ」

 ……日本語だ。ツバを呑む。声の調子は男のものだった。まだ若いが、殺しのスキルに若いも老いも関係無い。左足を引く。両手を下げた。「ほう」とマクシミリアヌスが一つ呟く。

「なんだ、動いていたのか」
「おっさん知ってたのか!?」
「だからおっさんでは無いと言うに――まあいい、質問に答えるならば答えはSiだ。是。知っていたとも。本部を出た後、しばらくしてつきまとう気配があったからな」

 ひゅう。マリピエロみたいには吹けないので真佳は心のなかで口笛を吹く。

「知ってたのか。私は感じれなかった。まだまだ修行が足りないなあ」
「いや、君が感じずとも不思議は無い。俺は奴の気配ではなく、奴の眷属の気配を探っていたのだから」
「眷属、……ってーと、……第一級魔力保持者か……っ」

 マリピエロが奥歯を噛み締めるのが、横顔を見て真佳にも分かった。
 ――眷属。
 ダヴィドが初日に言いかけた、第一級魔力保持者が有する特徴の一つだ。その後気になって調べてみたので、真佳もそれがどんなものか知っている。
 マクシミリアヌスが笑った。鼻で笑うような軽い笑い。
「よかろう! 君も魔術師であるのなら俺も加減はせん! 俺が相手をしようじゃないか!」言い終わるや否や背に差した鞘から大剣を取り出しぴったりと。

「――彼女を殺すことは俺が許さん」

 刃の切っ先を人影へ向けた、
 刹那。
 マクシミリアヌスを中心とした半径約九十センチ。闇が落とされた煉瓦道、その地面に直接ぼこりと光を放つ真っ赤な魔術式が展開された――! 二重に重ねられた真円の中、幾つもの正方形が角度を変えて入れ子人形のように密集している。真っ赤に真っ赤を重ねた中心点。即ちマクシミリアヌスの軍靴の下にはもはや闇などどこにもない。真円の隙間及び正方形の間隙にはどこの国の言葉か分からない文字が据えられ何かの暗号を術者に語る。スカッリアの言葉すら理解出来ない真佳にはそれがどういった意味を持つものか無論分かるはずもなく。
 ただ分かるのは、夜風に交じる魔力の圧力による突風と、
 大男中佐の心臓部――
 彼の体の中枢から赤い光を全身全霊にまとった獣が、
 ――獅子が。
 疾風の如く飛び出し屋根に、人影と同じ舞台に立ったこと、のみ。
 構えを解かずに獅子を見上げた。真佳も初めて見たものだ。いや、正確に言えば初めてではない。真佳は既にあれと同じものを、そうと認識しないままに確かに視界に入れていた。この世界で最初に魔術を見せられた場所、真佳の部屋、窓から見えたマリピエロの氷の龍――
 眷属。
 氷の龍も炎の獅子も、両方ともにそれは本質的には同じ生き物だったのだ。マクシミリアヌスの炎の獅子、その背に刻まれた文様が――マクシミリアヌスが展開した魔術式と同じ文様が、如実にそれを詳述している。
 風に混じるような口笛が、人影の側から聞こえてきた。

「第一級魔力保持者」

 マリピエロ准尉が先程述べたと同じ言の葉を、彼よりも落ち着いた深みのある声で――言って、人影は、笑った。
 ――眷属とは、簡単に言えば第一級魔力の塊みたいなものなのだそうだ。通常何らかの生物の形を取っており、その体には今目の前で火光を放つ獅子のようにどこかに魔術式が刻まれる。
 眷属と魔力の具現化とでは根本的に違っていて、例えば魔力を具現化して獣の形を取らせたものは術者が隠し持っている魔術式を破壊すれば魔術式諸共獣の方も消失する。が、眷属は違う。ダヴィドの言では、具現化用の魔術式と眷属用の魔術式とは、同じ文様でも別個の存在として処理されるらしい。……さて、では眷属専用の魔術式は――と言うと。語るまでもない。何度も述べた眷属の体に刻まれた魔術式。あれが彼ら眷属の核であり、あれを直接破壊することで初めて眷属は消失する。
 眷属を出すことのリスクなんかも当然あったりもするのだが、しかし魔力を多く必要とするような強い魔術を展開する場合には、必ず補助として召喚されるものだ。
 即ち。
 眷属がこうして出てきたと言うことは、今、マクシミリアヌスは強い魔術を使う覚悟が出来ている、ということ――。
 唇をしめした。
 マクシミリアヌスやマリピエロに出来るだけ迷惑はかけたくなかったが……仕方がない。

「そうか、成る程、魔術師の護衛付きか。まあでもオレには関係無いよ。オレはただ指定された人間を殺す、だけ――」

 影が動く、
 ことを認識してぴくりと瞼が痙攣した。刮目。影は片足に体重を移動させ――違う、不審な所作はここではない。思考を中断。視線を更に跳ねあげる。
 右手。
 男の人差し指が月を――
 ……いや。
 正確に言えばそいつはどこも指してはいない。強いて挙げるとすればそれは、彼の指の腹より上空に出来た小さな

「――っだ!」

 ナイフ!
 最後の一音に力が乗せられると同時、頭上から大量の鉄片の雨が降り注ぐ。路上で見たのと同じもの。外縁をナイフで覆った人を殺すための刃が。

「戯れを!!」

 マクシミリアヌスが一閃獅子吼。大剣を薙ぐと同時、煉瓦道に浮かぶ中佐の魔術式から人魂みたいな炎の塊が、ぼこり――幾つも飛び出しそのまま降り注ぐ刃に突撃。ぼっ。ナイフを一瞬にして焼ききる音。多大な炎による熱風と、脳を強く刺激する鉄の焼かれるにおいに顔を顰める――間も無く。

「!」

 野生的な殺気を感じて一歩そこから飛び退った。ガキン。鈍い音。頬を伝う汗を感じて顔をあげる。
 さっきまで真佳の爪先があった地面――触れるか触れないかのギリギリのところに、檻があった。冷気を放つ氷の檻。真佳から見てそれは確かに檻だった。五本の氷柱が砂埃を積んだ煉瓦を穿って、その場にしっかり根を張っている。氷、と言えば――
 マリピエロ。氷柱の向こうに彼と龍、アイスブルーの光を放つ魔術式とを認識して息を吐く。――と、
 ガチッ――空気を揺らす吐息に混ざって、硬質な音が目前でした。
 五本のうち中央に突き立った氷柱に視線を這わす――マクシミリアヌスの放つ火光に照らされて、氷柱に巻き付いた獣の牙が妖しく光った。粘着質な唾液にコーティングされた、それは鋭利な刃の塊。
 鉄の狼。
 牙の間に覗く舌に魔術式らしき文様を認めて確信した。言うまでも無い。真佳を殺すと抜かした男の眷属である。マクシミリアヌスがナイフの雨に掛かりきっている隙をついて放ってきやがった――ツバを呑む。
 ハッ、
 空気を吐き出すみたいな獣の呻り。くわえ込んでいた氷柱に前足を叩きつけて鼻先を引っこ抜き、勢いを殺すことなくそのまま後退、「っ、」マリピエロの焦った呼気。鉄の獣は着地した一歩をそれと同時に始点とし、後ろ足で地面を蹴り氷柱を、
 ――飛び越える前に炎が視界を横切った。
 マクシミリアヌスの眷属……炎でもって生成された獅子が恐れることなく狼目掛けて襲いかかる。「うわっ――」隙をついてマリピエロの龍が人影、狼の術者目掛けて突撃する――。
 ……なんだこれは。
 思わず笑ったみたいに頬を引き攣らせた。顔の表面を伝いきった汗の玉が首筋を巡る。
 これが魔術師同士の……第一級魔力保持者同士の戦い――! 何の能力も持たない真佳が素手で挑める相手では無い。甘かった。考え方が甘かった。熱風と冷気と鉄の焼けるにおいとに当てられながら自分を叱咤。せめて武器がなければこんな――
 ――……待てよ。
 武器が無いのなら、
 ……作ればいい。
 屋根の上へと視線を跳ねる。視軸の先で強い舌打ちがしかと聞こえた。

「第一級魔術師が二人? そんなの聞いてないぞ……!」

 退かれる。
 直感した刹那、

「マリピエロ!」

 気がついたときには叫んでいた。

「氷でどれだけ精巧なものが作れるっ?」
「は? 何だいきなり、今そんなどころじゃ――」
「いいから早く答える!」
「……細工みたいな細かいのは無理だ。せいぜい形状を似せるくらい――」
「じゃあ槍の先端を、出来るだけ多く」
「槍の先端?」
「そ。ロングスピアの。それの刃と、あと刃と同じ長さの柄。柄の端にドーナツ型の飾りつけてくれたらちょう最高」
「それはいいがアンタそんなもの何に」
「ぐずぐずしてたら眷属瀕死にされるよー!」
「はっ!?」

 マリピエロが視線を上げたところで、龍が持つ巨大な体躯に鉄の刃が降り注いでいるのを見た。「ぬう!」マクシミリアヌスがもどかしげに歯噛み。それはそうだ。龍目掛けて飛んでいく刃をマクシミリアヌスの魔術で防ごうものなら、たちまちマリピエロの眷属たる氷の龍はどろりと溶けてしまうに違いない。殺害を計画する男が狙ったのはそこだった。マクシミリアヌスの魔術か男の魔術か、どちらが原因でも彼には一向構わない。戦力の一つを減らせれば。

「ええい、くそ!」

 投げやり気味に呟いたマリピエロの手が、地面に描かれる魔術式と水平に広げられたのを真佳は見た。沸き起こる氷の塊とそれが成す形状に、――くつり。笑う。つり上がった上唇を素早く舐めながら氷柱を迂回。爪先を真っ直ぐマリピエロへ向けて、

「ッ、フェッロ・ルーポ!」

 ナイフのように研ぎ澄まされた人影の訓令が宙を飛び、呼応した鉄狼が獅子を振り切りこちらへ跳ぶ――喉元。咄嗟の一瞬で獣の狙いに当たりをつけ襲い来るタイミングを逃すことなく、
 キャンッ――
 眼部に手刀。
 胃の底から突き抜けてきたような悲鳴を上げて、瞼を強く閉じた狼が後ろに退いた。「フィアンマ・レオーネ!」マクシミリアヌスの怒号が唸る。間髪入れず獅子が狼にマウントポジションを取った様を横目で実見して、「っ、」声もあげずに左の拳を握った。
 鉄塊を小指の面で力いっぱい叩いたのだ、勿論のことかなり痛い。腫れているかもしれないが今はそんな悠長なことに気を配っている余裕は無かった。マクシミリアヌスが男のナイフを燃やし落としてくれているうちに終わらせないと。熱気と冷気とが合わさった風を切り、我武者羅に走る足に力を込める。長いスカートが足に巻き付き邪魔をする。
 眷属の持つ眼球が、他の多くの生物と同様にデリケートな部位の一つとして数えられていてくれて助かった。全身と同じく目の玉すらも剛性度の高い塊であったならば――あの時、真佳は確実に殺されていた。

「マリピエロ!」
「眷属相手に素手ってアンタ、無茶すんなあ!」

 滑り込んだと同時に小言の雨を降らされたが無論応えている時間は無い。男は今にも退きそうだし、男の眷属だっていつマクシミリアヌスの獅子から逃れだすか知れないのだ。こんなところで死ぬわけには絶対いかない。
 マリピエロから視軸を移動。魔術式が囲む内側、土埃に侵された煉瓦上に揃えて置かれた目的のものに「ひゅう」口笛が吹けないので口で言った。ロングスピアの先端――柄の端に輪っか――時間が無かったこともありかなり簡略に伝えたのだが、なかなかどうして筋がいい。
 小クナイ――。
 それは正しく、真佳の最も扱い慣れた武器の形を取っていた。

「イメージぴったりだ。流石マリピエロ」
「なら良いけどよ、アンタこんなもんどうす――って、」

 三本。
 右の指間にきっちり挟んで、マリピエロが言葉を呑むと同時に、
 一投!

「どわっ!?」

 男の叫びが宵闇を突く。顔面スレスレ――男が咄嗟に避けたことでクナイが三つ横切った。舌なめずり。重さも上々。見事に再現された小クナイに心から感謝、すると同時に、
 痛い。心の中で弱音を吐いた。凄く痛い。指の狭間から手首にかけて、まるでこちらの手の方がきんと凍りついてしまったのではなかろうか。直接氷に触れた箇所がじんじん疼き、体の芯が熱を持って燃えている。頬に差した赤みの上を冷たい夜風が無慈悲に過ぎた。暑い。痛い。でもやめない。やめられない。左手は既に次のクナイを掴んでいる。三つ。しっかり指の間に。さっき痛めた箇所がじくんと疼いた。

「おい、こら、マナカ!!」

 マリピエロの制止は除外。一投目のクナイを避けるためによろめいた男の、その無防備な足元目掛けて、
 投擲!
 二投目のうち一本は人影を通り過ぎ一本が「がっ、」男の脛を掠めてそれからもう一本は、
 男の足元。
 建造物の軒先に当たって――カラン。甲高い音を響かせ落下。その軌跡を辿るのは、

「っ!?」

 ――笑った。
 男の体は、既に軒先の上には存在しなかった。足元に飛び来るクナイから逃れようと足を引き、そのまま片足を滑らせたのだ。降り注ぐ刃がやんだ。計算通り。もう三本、疼痛が淡い痒みに転じた右手にしっかと武器を挟み込む。落下していく人影目掛けて、

「っ!」

 目を瞑った男の、
 コート。
 その肩口を、輪郭に沿い綺麗に並列したクナイが、カカカン! 「よしっ!」見事に引っ掛けて真っ赤なコートそれのみを展示物よろしく家壁に磔刑。

「……は?」

 一拍遅れて中身の方が、コートに強制的に脱がされたみたいな格好で真佳らの舞台に落っこちた。「ぅわっ」ばすんという重い音。一度落下速度を落としておいたのでそれほど重症にはなっていないだろう。三階の屋根から落ちるより二階の半ばから落ちた方が助かる見込みは高い。だからクナイでコートを引っ掛けたわけなのだし。
 だって聞きたいことはたっぷりあるし?
 間髪入れずに煉瓦道に蹴りを入れる。走りだしざま氷のクナイを一本掴み、鉄と炎、眷属同士のやり取りの脇をすり抜け「おお」どこか放心したふうなマクシミリアヌスの感嘆をも通り過ぎ風に黒髪を靡かせて、
 片膝をつく。
 身を起こしかけたその男の頸動脈にクナイの刃を押し当ててぴたりと制止。誰かがはっと息を呑む音。

「眷属を引かせて。これ以上抵抗するようならすぐにでもキミの首を――って」

 目を瞬かせた。
 マクシミリアヌスの眷属、その火光に男の長く流れる白髪が皓々と照らされている。天高く降り注ぐ三つ子の月桂を、淡い橙色の双眸が爛と反射。ちょっと触ったら折れてしまいそうなくらい華奢な体躯を持ったその男は――、
 ……少年だった。
 真佳の世界にいたならばどこかの中学校の制服を着て義務教育を受けていそうな、まだ幼い顔立ちを残した少年。
 その少年が、真佳に刃を突きつけられどこか拗ねた顔をして、じっとこっちを睨んでいた。

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